原文:
http://americanfolklore.net/folklore/2013/03/hatchet_man.html
鉈を持った男がうろついているから注意するようにという警告が、大学当局から出された。男は市内で女性が惨殺された事件の犯人である可能性があるということだった。特に女子生徒に対しては、必ず2人以上で行動し、夜外出するときは暗い場所に行かないようにという警告が行われた。
ある2年生の女子生徒とそのルームメイトは、感謝祭の休日をがらんとした寄宿舎の中で過ごしていた。親が州外にいて、帰省が難しかったからだった。彼女たちは鉈を持った男を警戒して夜はずっと寮内にいたのだが、だんだん退屈し始めた。ある日、ルームメイトが地元のバーに夕食を食べに行こうと提案し、女子生徒もその提案に乗った。
2人は予想より長居してしまい、彼女が寮に戻ろうと思った頃には深夜近くになっていた。ルームメイトはバーテンダーと盛り上がっていたので、彼女は一人で真っ暗な人気のない道を戻ることになった。だが別に不安は感じなかった。酔っ払っていて鉈男のことなど忘れていたのだ。暗くて不気味な雰囲気の小道に入ってやっと、彼女は殺人者があたりをうろついていることを思い出した。
女子生徒は急に酔いが覚め、震え始めた。全ての暗がりと戸口から、悪意に満ちた目が自分に向けられているような気がした。彼女は歩調を早めた。息づかいの音や足音が自分のものではないような気がした。
女子生徒は走り始めた。心臓が早鐘を打っていた。明らかに誰かがついてきていると感じたのだ。彼女はキャンパス内に走り込むと、あえぎながら寮に駆け込み、階段を駆け上がって自分の部屋に飛び込んだ。
疲労困憊してドアに寄りかかった途端、彼女はバカバカしくなってきた。廊下からは足音も、荒い息づかいも聞こえてこなかった。もちろん鉈でドアを壊す音も聞こえない。誰かが追いかけてきたと感じたのは、錯覚だったのだ。
足はまだ震えていたが、女子生徒はドアに鍵をかけると、シャワーを浴びることにした。一応鏡を覗き込み、何か異常が無いかを確認した。鏡には何も変わったものは映っておらず、全て平常通りだった。もちろん不審な音もしない。何でも無かったのだと、彼女は自らに言い聞かせた。
それから彼女はルームメイトがまだバーにいることを思い出した。ルームメイトには同じような恐怖を味わってほしくなかったので、彼女はバーに電話してマネージャーに、友人をタクシーで帰らせてほしいと頼んだ。バーのBGMがうるさくて相手にちゃんと伝わったのか若干不安だったが、とりあえず伝言はしたのでいいことにしておいた。
女子生徒はベッドに横になって読書灯を付け、ルームメイトの帰りを待つことにした。だがバーで飲みすぎたのと、さっき走って疲れたせいで、すぐに眠ってしまった。彼女は早朝まで目覚めなかった。
目が覚めるとひどい二日酔いだったが、彼女は何とかベッドから起き上がった。部屋を見渡してみて、彼女はルームメイトが自分のベッドにいないことに気づいた。それどころか、ルームメイトが戻ってきた形跡さえなかった。
彼女の心臓は、また急に高鳴り始めた。ルームメイトはロビーで寝たのだろうか? 確かに一度そういうことはあった。あの日は早朝までパーティーをやっていて、彼女は階段を3階まで上がるのが億劫だと言って、そのまま寝てしまったのだ。
女子生徒は震える手でドアを開け、ルームメイトを探すことにした。ドアが開いた瞬間、かすかだが間違えようのない異臭がした。金気くさい臭い。血の臭いだった。おそるおそる廊下に目を向けると、壁中に血が飛び散っているのが見えた。そして彼女のすぐ目の前には、ルームメイトの切断された死体があった。彼女は悲鳴を上げて飛び退いた。ルームメイトの喉は掻き切られていて、その下には血がたまっていた。伸ばされた手の先にある爪ははがれており、彼女がドアをひっかいて助けを求めていたことを伺わせた。
ルームメイトの死体には何かの影が差していた。女子生徒が顔を上げて影の源を探すと、階段横の窓枠に血で汚れた鉈がはめ込まれていた。そこに朝日が差したことで、鉈の輪郭が映っていたのだった。
(終わり)
管理人
いわゆる「ルームメイトの死」のバージョンの1つです。にしても個人的には、「鉈が窓枠にはめ込まれていた」より、「犯人が目の前に立っていて鉈を振り下ろそうとしていた」のほうが、エンディングとしてインパクトがあると思うのですが。まあそれもかなり安易な発想なので、あえてこういうエンディングにしたとも考えられますけどね。それから「バーに電話したけど、BGMが大きすぎて伝わったのか分からなかった」という伏線を、もう少し生かしたほうが良かったのでは?
…えーと、何だか評論家みたいな偉そうな文章になってきたので、管理人はこの辺りで失礼します。